キューバの野球に魅せられて~アマチュア最強チーム~
キューバの野球に魅せられて
最初にキューバの野球に興味を持ったのはいつだったか…。
2006年の第1回WBC 見事に初代チャンピオンに輝いた侍ジャパンの決勝戦の相手がキューバだった。
当時は今以上にキューバ野球の情報もほとんどなく、真っ赤なユニフォームに身を包んだキューバ代表チームは不気味に思えたことを思い出す。
大会前に発表された代表メンバーの名前を見ても???
各国代表に名を連ねるメジャーリーガーならピンとくるのだが…。
キューバ代表に関する予備知識といえば、オリンピックで3個の金メダルと2個の銀メダルを獲得した実績を持つなど、とにかく国際試合に強いアマチュア最強チームであるということ…。
決勝で日本に敗れたとはいえ、現役メジャーリーガーを含めた各国代表を抑えての準優勝は、まさにアマチュア最強の名に恥じない戦いだったと言って良いのではないだろうか。
そんなキューバ代表に関する、耳を疑うようなニュースが…。
侍ジャパンの選手の宿舎ホテルの部屋に、キューバの選手が野球道具をねだりに来たという…。
そんなことがあるだろうか…。
決して豊かでないとはいえ、一国を代表するチームの選手がである。
しかも野球といえばキューバの国技ではなかったか…。
華やかな国際試合の舞台で、現役メジャーリーガーを向こうに回して堂々たるプレーをやってのける彼らが…。
満足な野球道具を手に入れられない…。
2019年現在も数少ない社会主義体制を貫くカリブの島国…。
かつてはオリンピックをはじめ多くの国際大会を制覇し、数多の個性的な名プレーヤーを排出しながら、今なお代表チームの選手にさえも満足な野球道具が揃わない国…。
そんなキューバ野球への疑問の数々を解きほぐそうとするうちに、いつしかキューバ野球の虜に…。
彼らはいったいどのような環境で世界に通用する選手に育つのか…?
キューバのトップスポーツ選手は野球に限らず国営のスポーツ養成学校で学ぶ。
選手の育成方法は旧ソ連の制度に近いと言われている。キューバ全土からスカウトされた才能のある12~13歳の少年少女をテストし子供たちの適正スポーツを見極める。
養成学校に入学後は、午前中に練習、午後から通常の授業を受けながら各競技のアスリートとして磨き上げられていく。
人口1100万人余りの島国から世界に通用するアスリートが数多く育つのは国を挙げてのスポーツへの取り組みがあるからだろう。
ちなみに2回のオリンピックと3回のWBCで活躍した元キューバ代表左腕ノルベルト・ゴンザレス氏に幼少期の野球の指導について尋ねると、キューバではまずバッティングの指導から始めるそうだ。
・野球を始めたばかりの幼い子どもにとってバッティングは難しいこと。
・打球を飛ばす楽しさで野球を好きにさせること。
数々の国際舞台で活躍した名投手の口からまずバッティングの話が出て驚いた。
日本ではまずキャッチボールから始めることが多いと思うが、この辺は同じ野球といえどもお国柄が出るところなのか興味深い。
キューバの国内リーグはどんなレベルだろうか…?
キューバは現在も社会主義体制を維持しており野球選手は国の制度上プロではなく国家公務員の扱いとなる。
選手は一般国民にくらべるといくぶん給料も良く、活躍すれば政府から自家用車の貸与があるなどの厚遇を受けられることもあるそうだ。
それでも他国の野球選手に比べるとかなり低い収入であることには変わりなく、メジャーリーグを目指して亡命する選手が後を絶たない。
そのためキューバの国内リーグSerie Nacional de Béisbol (セリエ ナシオナル デ ベイスボル)は選手層の空洞化が進んでいる。
投手は140km/hそこそこのムービング系のボールと変化球を駆使する軟投派が多く、速球派の投手はあまり見られない。
左腕から170km/hに迫る豪速球を繰り出すアロルディス・チャップマン(ニューヨーク ヤンキース)のような投手の多くは海外でプレーしている。
2017年WBCキューバ代表のリバン・モイネロ(ソフトバンクホークス)とライデル・マルティネス(中日ドラゴンズ)の2人の速球派の投手は日本で活躍している。
打者は3割を越える打率の選手も少なくないが、これは投手の力量との兼ね合いもあるので他国のリーグで同様の成績を残せるかは未知数だ。
とはいえ2017年のセ・リーグのホームラン王は中日ドラゴンズのアレックス・ゲレーロ(現巨人)、パ・リーグのホームラン王はソフトバンクホークスのアルフレッド・デスパイネで共にキューバ出身の選手である。
守備の方は素晴らしいスピードで驚くような広い守備範囲の外野手がいたり、とんでもない姿勢から矢のような送球を見せる内野手がいる反面、イージーなミスも少なくない。
日本ではあまり見かけないが、ズングリとした丸い体型でセカンドやショートを守っている選手もいる。
日本のプロ野球と比較すると全体的に荒削りな印象を受ける。
いずれにせよ、これはあくまで素人である筆者の見立てではあるが、現在キューバ国内にあるSerie Nacional de Béisbol (セリエ ナシオナル デ ベイスボル)の16チームの各単体チームでは日本のプロ野球NPB12球団のチームには及ばないと思われる。
それでもキューバの野球は魅力的
選手層が空洞化したとはいえ大ベテランの選手もトップリーグに上がってきたばかりの息子のような世代の選手と一喜一憂しながら共に戦っている。
キューバのチームはそれ自体がまるでファミリーのようだ。
こうして、これからもキューバの野球は次世代に受け継がれていくだろう。
確かに現在のキューバの野球にかつてアマチュア最強の赤い軍団と呼ばれた頃の面影は見えないかもしれない…。
それでもキューバにはまだまだ世界に知られていない凄いやつらがいるのではないか…。
そんな期待を抱かせる魅力がキューバの野球にはあるのだ。
まさか2006年当時は数年後に自分がキューバで野球観戦をすることになるとは思いもよらなかったが…。